やさしい日本語

難しい単語を簡単な表現で置き換えたり、一文を短くしたりすることで、より多くの人にわかりやすくした日本語のことを「やさしい日本語」と言います。このガイドラインでは、SmartHRが提供するサービスにやさしい日本語を適用する際の推奨事項を記載しています。

ガイドラインに沿ってUIテキストや説明文を書き換えることで、書字日本語の読解に困難があるユーザーや、多様な文化的背景を持つユーザーが、SmartHRをスムーズに利用できるようにします。ただし、この書き換えは、すべてのユーザーのニーズに対応するものではありません。

読解能力の目安

本ガイドラインで説明する書き換えでは、以下の水準で日本語の読み書きができる人にとってわかりやすい情報提供の実現を目指します。

  • 日本語能力検定 4級
  • 小学校3〜4年生程度の読解力
  • 日常会話に関する語彙 300〜500語の理解

背景

日本の法律や制度に準じた人事・労務関連の手続きでは、タスクを進めるために高度な読解力や専門用語の理解が求められます。手続きの文章を正確に読み解くために労働法や税法に関する知識が必要になる場面もあります。

  • 手続きに関する文の特徴
    • 文章や、文脈が長く複雑
    • 高度な文法が使用されている
    • 高度な語彙、専門用語が使用されている

現代の日本では多様な人材の社会的活躍が推進され、外国人や障害者の労働人口が増加傾向にあります。日本で働くすべての人が必ずしも高度な日本語の読解力を有しているわけではないなか、支援の体制も十分ではなく、就労にまつわる手続きにおいて本人や周囲の支援者に負担が生じています。

SmartHRがユーザー企業を対象に実施した調査では、特に以下のようなユーザーが利用する際に、手続きの完了に難しさがある・周囲の支援が必要であることがわかりました。

  • 技能実習生、特定技能、留学生など、日本語能力試験N4〜N5レベルの外国人
  • 複雑な情報の理解や、難しい漢字の読みに困難のある知的障害者や発達障害者
  • 第一言語が書字・音声日本語ではない聴覚障害者
  • デジタル機器の操作に不慣れな高齢者

このようなユーザーを支援するために、SmartHRが提供するサービス上の言葉を簡単な言葉に書き換えたり、図や動画を活用したりする工夫が必要です。

方針

ユーザーの不利益にならない範囲で、UIテキストや説明文をやさしい日本語に書き換えます。書き換える際の観点は、文章を読みやすくするためのものと、内容を理解しやすくするためのものに大別されます。

方針1. 情報の正確性に影響しないように書き換える

SmartHRがサービス内で提供する情報は、ユーザーの人事・労務手続きに影響します。やさしい日本語の適用によって、手続きの内容や結果に悪影響を及ぼす可能性がある場合は書き換えません。

  • 法律や制度の誤った解釈に繋がる場合
  • ユーザーの誤入力・誤操作に繋がる場合

ユーザーに不利益を与える書き換えを防止するため、法律や制度についてよく理解している人に監修やレビューを依頼します。

方針2. 読みやすさと、内容の理解しやすさを考慮して書き換える

文字や文章を認識しやすくして読みやすくするための書き換えと、文章の意味や意図を捉えて内容を理解しやすくするための書き換えを行ないます。

読みやすくする

文字や語彙、文章の構成を工夫することで、視覚的に捉えやすくなったり、文章にリズムが生まれて読みやすくなります。

  • 一文を短くする
  • 全体の文章量を少なくする
  • 分かち書きをする
  • 漢字に読みがなをつける

理解しやすくする

構文や情報の粒度を工夫することで、文章の意味や意図を理解しやすくします。

  • 主語、目的語、述語を省略せず、明確に書く
  • 1つの文で1つのことを説明する
  • わかりやすい語句簡単な語彙に置き換える
  • 文の構造をわかりやすくするために、読点を使用する
  • 専門的な用語に短い説明を加える
  • 絵や図、動画を活用する

書き換え方

  1. 文章量・情報量の調整
  • 1-1. 一文を短くする
  • 1-2. 文章量を少なくする
  • 1-3. 1つの文で1つのことを説明する
  1. 文章構造の調整
  • 2-1. 主語や目的語を明確に書く
  • 2-2. 分かち書きをする
  • 2-3. 読点を使用する
  1. 使用語彙の調整
  • 3-1. 漢字を使用する
  • 3-2. 読みがなを表示する
  • 3-3. 適切な語彙を使用する

1.文章量・情報量の調整

1-1. 一文を短くする

削除してもユーザーの不利益にならない※と判断できる語句を削除して、文をできるだけ短くします。1つの文に含まれる要素が少ないと、主語や目的語を捉えやすくなります。視覚的に認識しやすく、情報の整理や処理がしやすい文にします。

※当該の表現を削除してもユーザーがタスクを完了できる場合、ユーザーの不利益にならないと判断します。

準備中

1-2.文章量を少なくする

いくつかの文の集合によって情報を提示する場合、削除してもユーザーの不利益にならない※と判断できる文や情報を削除します。読まなければいけない文が少なくなり、読みの負担を軽減できます。1つのセクションに含まれる文を減らすだけでなく、画面全体の文章を必要最低限に減らします。

拾い読みをせず、すべての文を慎重に読もうとするユーザーにとっては、文章量の多さは読解の負荷に繋がります。

※当該の表現を削除してもユーザーがタスクを完了できる場合、ユーザーの不利益にならないと判断します。

準備中

1-3. 1つの文で1つのことを説明する(一文一義)

複数のことを1つの文で説明すると、主旨が曖昧になり誤解を生んだり、複雑になることで読解に時間がかかることがあります。1つの文で1つのことを説明することで、意図が明確にすばやく伝わります。

準備中

2. 文章構造の調整

2-1. 主語や主題、目的語を明確に書く

日本語では主語や主題、目的語を文脈に依存させ省略する表現が使われることがありますが、主語や目的語を省略すると読者に文脈から意味を推測させる必要性が生じ、読解の負荷に繋がります。
主語や目的語を省略せず書くことで、文章の曖昧さを解消し、文脈の理解度や推測能力に関わらず理解しやすい文になります。

例: 主題「あなたは」が省略されている文「今年 1月〜12月に、会社以外から給与収入はありますか?」の書き換え

原文: 今年 1月〜12月に、会社以外から給与収入はありますか?

やさしい日本語では、省略されている主題「あなたは(が)」を補うことで、質問の対象を明確にします。文の先頭に「あなたは」を追加することを検討します。

書き換え案: あなたは 今年の 1月〜12月に、会社以外から お金をもらいましたか?(もらいますか?)

2-2. 分かち書きをする

文節にスペースを挿入し、分かち書きをすることで、単語や文節をかたまりとして捉えやすくなります。

分かち書きの方法は、弘前大学社会言語学研究室作成 増補版「やさしい日本語」作成のためのガイドラインを参考にします。

例: 年末調整のアンケートの文

保険に 自分で 入って お金を はらっているなら「はい」を えらびます。

2-3. 読点を使用する

分かち書きをするため、短い文では読点を使用しませんが、以下のような状況では読点「、」の使用を検討します。

状況1: 「たら」「のとき」などを使った条件文

文章の前半で条件を記し、後半で指示を示す文では「のとき(は)」「なら」「たら」のあとに読点「、」を挿入することで、条件の文節と指示の文節を区別しやすいようにします。

例:接続助詞「なら」を使って、条件と指示を表す文

あなたに 夫や 妻が いるなら、 会社に 言ってください。

状況2: 複数の要素を提示する文

複数の要素を並列に提示する場合は、要素の区切りに「、」を挿入してわかりやすくします。複数の要素を比較したり、複数の要素の中からいくつかを選ばせるための指示文で使います。

例:1つ目の要素「今の会社でもらうお金」と、2つ目の要素「他の会社でもらうお金」を、並列に提示し比較させる文

今の 会社で もらうお金と 他の 会社で もらうお金 どちらが 多いですか?

状況3: 助詞「では」を使用し、文頭で条件を提示する文

場所や手段などの前提条件を示す「では」「は」が文頭で使われる場合、主語と区別しやすくするために読点「、」を挿入します。
※「では」は日本語能力試験でN3レベルの文法のため、「なら」「のとき」などで書き換えることも検討します。

例:利用状況の前提条件を示す「スマートフォンでは」が文頭に入る文

スマートフォンでは、 画面の 右に ボタンが あります。

例:所属先の前提条件を示す「今の会社では」が文頭に入る文

今の 会社では、 年末調整(ねんまつちょうせい)を やりません。

3. 使用語彙の調整

3-1. 漢字を使用する

漢字を使用することで、文に視覚的なリズムが生まれ、読みやすくなります。また、漢字の使用には、知らない語句があるユーザーが、語句を構成する漢字の意味から語句の意味を推測できるという利点があります。

漢字を使用しない場合、同音異義語を文脈で解釈させる負荷が生じたり、ひらがなだけが並ぶことで視覚的に認識しにくくなることがあります。

SmartHRでは、日本語能力試験N1〜N3相当の漢字は、漢字を使わずにひらがなで表記し、N4〜N5相当の漢字は漢字のまま使用します。ただし、N1〜N3相当の漢字であっても、専門用語や固有名詞などはひらがなに書き換えず漢字のまま使用します。

例: N3の漢字「押」「戻」をひらがなに、N5の漢字「前」は漢字で表記する

ボタンを おしたら、前に もどります。

例: 「年末調整」は、N3以上の漢字が含まれるが制度の名称のため、漢字で表記する

年末調整が 終わりました。

3-2. 読みがなを表示する

読み方・発音がわからない漢字があるとき、ユーザーは円滑な読みを妨げられます。3-1の基準に従い日本語能力試験N1〜N3相当の漢字には、読みがなを表示して、発音を確認できるようにします。

※ 漢字のあとに丸括弧で読みがなを併記する(3-2に関連する暫定措置)
  • 現在のSmartHRのプロダクトでは、HTMLの <ruby> 要素を使用した読みがなの表示ができません。そのため、特に難しいN1〜N3の漢字や、N1〜N3の漢字を含む熟語は、漢字のあとに丸括弧で読みがなを併記します。
  • 丸括弧での読みがなの併記による文字数の増加を最小限にするため、N4〜N5の漢字は読みがなを併記しません。
  • 送り仮名のある動詞・形容詞でN1〜N3の漢字が含まれる場合は、すべてひらがなで表記します。
例:漢字を含む専門用語に丸括弧で読みがなを併記する
  • 年末調整(ねんまつちょうせい)
例: N3の漢字を使う形容詞「難しい」、動詞「働く」は、送りがながあるのでひらがなで表記する
  • 【形容詞】難しい→むずかしい
  • 【動詞】働く→はたらく

3-3. 理解しやすい語句を使用する

使用語句の候補が複数ある場合、候補のなかで最も易しく、誰にとってもわかりやすい語句を使用します。SmartHRでは、以下の基準で易しいか、わかりやすいかを判断します。

  • 職業に関わらず、日常生活や就労中に使用する語句である
  • 生まれ育った土地に関わらず、よく触れる語句である
  • 日本語能力試験の出題語彙である
  • 和製英語や外来語ではない
  • 新造語や業界用語ではない

上記の基準に関わらず、情報を伝える対象者に近い人物にヒアリングを行ない、使用する語句を選びます。

例: 年末調整のアンケートより「かけもち・ダブルワーク・副業」

原文: 仕事をかけもちしている方(ダブルワーク・副業など)

かけもち・ダブルワーク・副業は、それぞれ、人によっては馴染みのない可能性がある語句です。また、日本語能力試験の出題語彙ではなく、日本語を外国語として学習した人にとってはわかりにくいことがあります。 実際のヒアリングでも、ユーザーによって「3つのうち、どの言葉がもっともわかりやすいか」に差がありました。
そのため、この3つの語句は使用せず 「他の会社の仕事」「他の仕事」 など、より一般的な語句を使って書き換えます。

書き換え例: 今の 会社以外 ほかの 会社で 仕事をしている人

補足事項

  1. 本ガイドラインは、SmartHRがユーザーを対象に効果的な書き換えを検証し独自に作成したものであり、官公庁や公共団体などで発行されているガイドラインや書き換え手法とは一致しません。
  2. 本ガイドラインは原則であり、実際の書き換えではターゲットユーザーや専門家へのヒアリング、レビュー、検証を行った上で、文を調整してください。