具体的な書き換え方
UIテキストや説明文をやさしい日本語に書き換える際の、具体的な観点を説明します。
1. 使用する語彙と文法
1-1. 漢字の使用やよみがなの有無は、日本語能力試験のレベルに基づき判断する
漢字を使用することで、文に視覚的なリズムが生まれ、読みやすくなります。また、漢字には、語句を知らない場合でもその語句を構成する漢字から意味を推測できるという利点があります。むやみにひらがなを用いるのではなく、下記のルールで漢字を残します。
漢字のレベル | 表記 |
---|---|
N1〜3の漢字・語彙 | 漢字で書く・よみがなあり |
N4〜5の漢字 | 漢字で書く・よみがななし |
送り仮名のある動詞で、漢字がN1〜3の場合 | ひらがなで書く |
送り仮名のある動詞で、漢字がN4〜5の場合 | 漢字で書く・よみがななし |
例:
ボタンを おしたら、前に もどります。
N3の漢字「押」「戻」はひらがなに、N5の漢字「前」は漢字かつよみがななしで表記します。
補足:
現在のSmartHRのプロダクトでは、HTMLの<ruby>
要素を使用したよみがなの表示ができません。そのため、よみがなをふる場合は、漢字のあとに丸括弧で併記します。
1-2. 中級以下の文法を使用する
できるだけ中級以下の文法を使用し、適切な文法が見つからない場合は、情報の正確性を損なわない範囲で表現を簡単に書き換えることを検討します。
例:
下記のいずれかに該当する扶養家族はいますか?
→あなたの 扶養になっている 家族で 次の 1か 2の人は いますか?
N1文法の「いずれ」を、N5の文法「〜か〜」に書き換えます。
1-3. 敬語を使わない
文体はシンプルな敬体(です・ます調)を基本とします。尊敬語や謙譲語は、必要がある場合を除いて、使用しません。
例:
ご利用いただけます
→使えます。
ご確認のほどよろしくお願いいたします
→確認してください。
1-4. 曖昧表現を使わない
曖昧な表現は具体的に、間接的な表現は直接的に言い換えます。
例:
〇〇することになります
→〇〇します。
お問い合わせいただければ対応いたします
→あなたが問い合わせれば、私たちが対応します。
1-5. 語彙は日本語能力試験の出題語彙から選ぶ
語句の候補が複数ある場合、候補のなかで最も易しく、誰にとってもわかりやすい語句を使用します。SmartHRでは、以下の基準で易しいか、わかりやすいかを判断します。
- 職業に関わらず、日常生活や就労中に使用する語句である
- 生まれ育った土地に関わらず、よく触れる語句である
- 日本語能力試験の出題語彙である
- 和製英語や外来語ではない
- 新造語や業界用語ではない
上記の基準に限らず、情報を伝える対象者に近い人物にヒアリングをし、使用する語句を選びます。
例:
仕事をかけもちしている方(ダブルワーク・副業など)
→ 今の 会社以外 ほかの 会社で 仕事をしている人
かけもち
やダブルワーク
、副業
は、人によっては馴染みのない可能性があります。また、日本語能力試験の出題語彙ではないため、日本語を外国語として学習した人にとってはわかりにくいことがあります。
実際にユーザーにヒアリングしたところ、「3つのうちどの言葉がもっともわかりやすいか」という質問への回答に、個人差がありました。
そのためこの3つの語句は使用せず、「ほかの会社の仕事」「ほかの仕事」など、より一般的な表現に書き換えます。
1-6. 固有名詞は書き換えない
「年末調整」「障害者手帳」などの固有名詞を易しい言葉に言い換えると、何を指しているのかが曖昧になり、逆に読み手を混乱させる可能性があります。
また、日本特有の制度に関する用語を書き換えると、日本で働くうえで知る必要のある言葉を学ぶ機会を、読み手から奪うことにもなりかねません。
書き換えない用語の例:
- 在留資格名
技術
人文知識
国際業務
日本人の配偶者
- 障害者手帳名
身体障害者手帳
精神障害者保健福祉手帳
療育手帳(愛護手帳など)
- 書類名
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
扶養控除等(異動)申告書
給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書
2. 文章構造
2-1. 主語や目的語を明確に書く
文脈を理解する力や推測する力にかかわらず理解できる文にするため、主語や目的語を明示します。
明確にすることで一文が長くなりすぎる場合は主語「あなたは」「あなたが」を省略する場合もありますが、「あなた」以外の人物が関連する文では各人物を具体的に指します。
例:
今年1月〜12月に、会社以外から給与収入はありますか?
→ あなたは今年の 1月〜12月に、会社以外から お金をもらいましたか?(もらいますか?)
2-2. 分かち書きをする
文節にスペースを挿入し、分かち書きをすることで、単語や文節をかたまりとして捉えやすくなります。
分かち書きの方法は、弘前大学社会言語学研究室作成の増補版「やさしい日本語」作成のためのガイドラインを参考にします。
2-3. 句読点を適切に使用する
分かち書きをするため、短い文では読点を使用しません。しかし以下のような場合は読点「、」の使用を検討します。
- 「たら」「のとき」などを使って条件を示す場合
- 文章の前半で条件を記し、後半で指示を示す文では「のとき(は)」「なら」「たら」のあとに読点「、」を挿入することで、条件の文節と指示の文節を区別しやすくします。
- 例:
あなたに 夫や 妻が いるなら、 会社に 言ってください。
- 複数の要素を提示する場合
- 複数の要素を並列に提示する場合は、要素の区切りに「、」を挿入します。要素を比較して説明する文や、要素の中からいくつかを選ばせる指示文で使います。
- 例:
今の 会社で もらうお金と、 他の 会社で もらうお金 どちらが 多いですか?
- 助詞「では」を使用し、文頭で条件を提示する場合
- 場所や手段などの前提条件を示す「では」「は」が文頭で使われる場合、主語と区別しやすくするために読点「、」を挿入します。
- 例:
スマートフォンでは、 画面の 右に ボタンが あります。
- 例:
今の 会社では、 年末調整(ねんまつちょうせい)を やりません。
- ※「では」は日本語能力試験でN3レベルの文法のため、「なら」「のとき」などで書き換えることも検討します。
3. 文章量・情報量
3-1. 1つの文で1つのことを説明する(一文一義)
1つの文で複数のことを説明すると、主旨が曖昧になり誤解を生む可能性があります。また、文が複雑になると読解に時間がかかります。
1つの文で1つのことを説明することで、意図が明確に、すばやく伝わります。
例:
その年に納めるべき所得税額は年間収入額が確定しないと計算できない仕組みとなっており、毎月の給与からは収入額と扶養家族人数を元にした「仮の所得税金額」が天引きされています。
→ 税金は 1年間に もらうお金が わからないと 計算できません。そのため 毎月 会社から もらうお金から 引かれている 税金は 予定の 金額です。
3-2. 情報量を必要最低限に絞る
削除してもユーザーの不利益にならない(※)と判断できる語句や文章を削除して、情報量を絞ります。
語句を削除すると、1つの文に含まれる要素が減り、主語や目的語を捉えやすくなります。また、視覚的に認識しやすく、情報の整理や処理がしやすい文になります。
文章を削除すると、読解の負荷を軽減できます。
※当該の表現を削除してもユーザーが間違えることなくタスクを完了できる場合、ユーザーの不利益にならないと判断します。
4. その他
4-1. 逐語的に書き換えず、伝えたい内容に着目する
背景で日本語が理解しづらい原因として説明した、オノマトペや二重否定、受身形などは、そのまま易しい語彙に置き換えるのではなく、同じ内容を別の手段で伝えることを検討します。
元の文章に縛られることなく、その文章で何を伝えたいかを考え、伝えたい内容がもっともシンプルに伝わる表現を探します。
元の文章とはかけ離れたとしても、伝えたいことが読み手に正しく理解されれば成功です。
例:
時間をあけて、やり直してください。
→ すこし待ってから、やり直してください。